家族信託で暦年贈与は可能?

〇相続税対策で暦年贈与をするケースは多いですが、

「家族信託を活用すれば、親が認知症になっても

受託者の権限で自由に、毎年孫への贈与を継続できる」と

勘違いしている人が意外と多いです。

 

1.「孫に定期的に金銭を贈与できる」旨の信託契約書を

作成しておけば、その後委託者が認知症になったとしても、

受託者が委託者に代わって自由に、信託財産から孫に対して

贈与できるのでしょうか?

 

結論から言えば、できません。

 

委託者から財産を託されている受託者は、委託者の財産を

受益者以外に交付することはできません。

 

受託者は預かっている財産を受益者の利益になることのみに

管理・処分をしなればなりませんので、受益者以外の人に

財産を交付することは、完全に受託者の義務違反です。

 

 

2.信託銀行で「暦年贈与信託」という商品がありますが、

きちんとした仕組みがあります。

 

1.委託者と信託銀行が契約を行うと同時に、委託者が

一定のまとまった金額を受託者である信託銀行に預ける

 

2.財産を預けた委託者が、贈与したい孫へ贈与したい旨を

信託銀行に意思表示することで、孫に受益権を一部譲渡する

 

3.信託銀行は受益者である孫に対して、その価値分の

金銭を贈与する

 

信託銀行は「受益者であり孫」に対して金銭を交付している

スキームを採っているので、贈与できるのです。

 

このスキームを理解していない人は、外見だけ見て

家族信託すれば親が認知症になっても、受託者の判断で

自由に親から預かった信託財産を贈与できる」と勘違いを

していることが多いです。

 

受益者の扶養義務を持つ人や成年後見人に対して、

「日常生活に必要な金銭」を交付することは例外として、

「受益者以外の人に信託財産を交付することはNG」です!!

 

 

3.では委託者が認知症などで自分で正常な判断・意思表示が

できなくなれば、暦年贈与を行えないのでしょうか?

 

信託法89条の「受益者指定権者」を定めることで対応可能です。

受益者指定権者は、受益者の承諾なしに新たな受益権を享受する人を

指定できます。

 

受益者指定権者が、孫を受益者(の追加)に指定することで、

受益者の地位を取得した孫に対して、委託者が認知症になっても

受託者から孫への信託財産の贈与が可能です。

 

ただ、受益者指定権者は信託のメリットを享受する受益者を単独で

指定・変更できる強い権限をもってますので、受益者指定権者を

定めるかどうかは慎重に決めるべきです。

 

 

<用語解説>

委託者:信託する財産のもともとの所有者で、信託をお願いする人

受託者:委託者からの信頼に基づいて、財産の管理・処分等をお願いされた人

受益者:信託された財産から生じる利益を受ける人

 

※「家族信託」は一般社団法人家族信託普及協会の登録商標です。

 

 

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